481983 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

yuuの一人芝居

yuuの一人芝居

児童劇 手のひらに太陽を・・・芸文館公演

  倉敷演劇フェスティバル”99
  1999・2・20~21日
  倉敷市芸文館ホール


  学校戦争


  手のひらに太陽を


             作・ほづ まこと
             潤色・吉馴  悠


         登場人物  この稿の後に記す。
         時     現代の白秋
         所     何処にでもある学校

         舞台情景
         校庭と教員室、が客席から見える。
         その空間で以下の物語が演じられる。
         具体的に舞台を此処に創造することはないとい         うこと。
         例えば・・・
         上手半分に職員室の一部。
         下手半分に校庭。その下手に校門がある。
         傍に樹木がニ三本植えられている。
         正面にバックネットが見える。
         校庭にはお菓子や、缶ジュースのゴミが散らか         っている。
         この舞台設定はこのドラマを通して一定である         。

         一幕一場

         朝。
         登校してくる生徒たち。
         ある者はクチャクチャと何やら食べながら・・         ・。またある者はマンガ本を読みながらという         学校の登校の模様が見られる。
         裾の長いスカート。太いズボン。薄っぺらなカ         バン。茶髪の生徒もいる。
         それらの生徒を恐れるように、温和しい生徒た         ちが恐々と通り過ぎていく。
         その中の何人かのやりとり。さおりとゆかが。
さゆり  ゆか、今日は何を持ってきたん?
ゆか   クッキー。さおりは?
さおり  チョコ。

         二人は互いに交換する。

ゆか   さおり、ええネックレスして、どうしたん?
おり  スケべーのオヤジにもろうたんょ。
ゆか   それって、援交?
さおり  誰にも言うちゃーオエンょ。絶対秘密!
ゆか   言ゆゃーあせん。言ゆゃーあせん。
さおり  こないだの晩、ゲーセンへ行っとったら、スケベーそう     なオヤジが近寄って来て『遊ばないか?』と言うて・・ゆか   遊ぶって・・・どんな事をするん・・・
さおり  話をしたり・・・カラオケで唄ったりじゃ・・・
ゆか   ほんとうに、それだけ!
さおり  それだけじゃ・・・
ゆか   ただそれだけでそんなにお金のかかるネックレスをくれ     るん?
さおり  そりぁー・・・まあ、危ないこともあるけえどー
ゆか   危ないこと・・・例えばどう言うことなん。
さおり  様々じゃ・・・
ゆか   様々たあどう言うことなん。
さおり  手を握られたり・・・
ゆか   いやらしい・・・
さおり  ゆかも興味があろう・・・
ゆか   うちは・・・それよりもっとなにやかやとあるんじゃろ     う・・・
さおり  そりゃあ・・・抱き締められたり・・・
ゆか   わあ・・・危険であぶねえが・・・でどうするん。
さおり  逃げるんじゃ。
ゆか   ふーん・・・

         さおりとゆかが上手に退場。
         坂本と藤原が登場する。
         太いズボン。薄っぺらなカバン。

坂本   (マンガの本を取り出して)この本デエレイ、エツチな     んじゃ。
藤原   坂本ほんまか、ほんなら見せてくれ。
坂本   藤原おめえ、何持って来たんなら。
藤原   何も持ってきとらん。
坂本   こねえだ、人殺しヤクザのなんとか言うのを見せたる言     うとったろうが。
藤原   ありゃあ、やった。
坂本   わしに見せずに人にやったんか、おめえはそんな奴じゃ     つたんか?
藤原   誰にやろうとわしの勝手じゃろうが・・・
坂本   何じゃ!コラアッ!人をバカ、虚仮にするんか。
藤原   おかんに見つかって・・・今じゃ煙になっとろう・・・坂本   煙と言やあ、もくもっとるか・・・
藤原   親父に見つかって煙にされた・・・
坂本   相変わらず、どじて小者じゃのう。
藤原   女の写真ばあ見とる・・・おめえこそ・・・
坂本   そう言う、藤原だって口ばあじゃねえか?
藤原   口ばぁでねえで・・・

         坂本、藤原を小突く。藤原も負けずに返す。

坂本   何しやがる。
藤原   おめえこそ、何をしやがる。
坂本   やるちゅうんか?
藤原   おう、やってやろうじゃんか・・・

         二人はとっ組みあいの喧嘩になる。
         その喧嘩を遠巻きに見守る他の生徒達。

藤原   見せ物じゃねえ。あっち行けえ。

         保健体育の先生の中野が登場。

坂本   ヤベエ、オコゼが来たぞ。

         二人は喧嘩をやめて逃げようとする。中野が坂         本を捕まえ平手打ちを喰らわす。続けて藤原へ         も。

中野   (二人に)ケンカすんなら、この俺にかかってこい。何     時でも相手をしてやる。

         二人は逃げる。中野先生が後を追う。

         校門の脇の木立から谷野が現われる。
         黒田が息を切らせて校門を潜って、谷野に近ず         き煙草を一本差し出す。谷野それを口に啣える
谷野   おい、火。
黒田   ハイッ。

         黒田は卑屈なまでに慇懃な姿勢で火を差し出す         。
         森先生が登場する。
         タバコを吸っている谷野を身て見ぬ振りをして         通り過ぎる。

谷野   (大声で)タバコ吸うとんのに何も言わんのかァ。それ     でもセンコウカーッ。
黒田   先生、谷野君がタバコ吸ってます・・・タバコは子供の     吸うものではないと思います・・・
     ぶん殴っても辞めさせるべきじゃと思います。
谷野   黒、もっと大きな声でおらべ・・・最近のセンコウは耳     が悪いらしいから・・・
黒田   ここで、谷野君がタバコを吸ってます・・・校則違反で     す・・・早く辞めさせてください・・・
谷野   もう止めとけ・・・

         佐野教師が登場してくる。
         谷野の姿を見てつかつかと近付いて行き、

佐野   谷野君。何してるんですか。いま隠したタバコを出しな     さい。
谷野   テメエには関係ねえじぁろうが。クソババア。

         谷野、佐野を突き飛ばして走り去る。その後を         黒田が追って退場しながら黒田がからからうよ         うに言っう。

黒田   谷野君、タバコはいけません。成長を妨げるし、肺癌の     素になりますから・・・

         間

         始業のチャイムが鳴る。
         職員室の教師たち、角田教師戸森教師を残して         出ていく。
         校庭では校務員が透明のビニールの袋を持って         校庭の散らばるゴミを拾っていく。
         早苗、もじもじしながら登場する。

校務員  (早苗に)授業、もう始まっとるよ。
早苗   ・・・
校務員  今日も養護室かな。
早苗   (頷き)あたま、いたいんです。
校務員  そうかい、そうか、お大事にな。

         早苗が急いで去る。
         校務員は黙々とゴミを拾う。
         職員室。

角田  さあてと、そろそろ始めるか。

         角田が重い腰を上げて教室へ去る。
         間
         突然、ガラスの割れる激しい音が。続いて女生         徒たちの鋭い悲鳴。
         「うるせえ」と谷野の怒声。
         「待ちなさい」と佐野教師のひきつったような         叫び声。
         谷野が校庭に飛びだしてきて、逃げ去る。
         後を追って佐野が出て来て逃げられたのを知り         引き返す。
         物音に驚いて出てくる教頭。

教頭  ・・・先生、血が・・・

         佐野の額に一筋の血が流れている。それを拭う         教頭。

    また、谷野ですか?
佐野  すいません。私の不注意です。
教頭  庇うのも限度というものがありますぞ。本当に困ったもの    ですなあ。

         二人は保健室へ消える。
         間
         平林が教頭と話しながら登場する。

平林  谷野とか言う子、なんとかならないんですか。子供たちの    話によれば、タバコは吸うわ、近ごろの子供言葉でなんと    言ったっけ・・・ツカイパーとかパシリとか言って、あご    でつかい走りさせるわ。温和しい子等はたまったもんじゃ    ありません・・・
    その子が原因で学校中、荒れに荒れているじゃありません    か。
    授業中の私語は絶えない。紙飛行機や消しゴムが飛び交い    。授業を勝手に放棄して教室を抜け出す子さえいるって聴    いています。
    正に学校崩壊じゃありませんか。
教頭  これは・・・言ってみれば・・・学校だけの責任ではない    と思います。家庭での躾の問題ですし・・・
平林  責任逃れの事は言わないでください。
教頭  ですからですね・・・このような時には学校とPTAの皆    さん方が話し合い一致団結してこの難局に立ち向かい・・    ・
平林  このままでは学力はどんどん低下していって、分数が解け    ない子だらけになります。
    今、アメリカで行なわれている警察官を配置するという事    もこれから考えていかなくてはならないのでは・・・
教頭  そんな・・学校に警官を・・・それこそ学校崩壊です。
    まあまあ、此処は、谷野の件については転校させる事も視    野に入れて・・・学校側としては穏便に、その子の為を思    って・・・良く意見を交換して最善を・・・
平林  いずれ、他の役員の方々と共にお伺いさせて戴きます。

                        暗転

         二場

         職員室
         教師が何人か集まっている。

校長  PTAから言われる迄もなく、此処はなんとか再生の道を    探らなくてはなりません。実状を出しあい、問題点を探り    、打開の方向を見付けだしたいと思います。先生方の忌憚    のないご意見を・・・
教頭  校長、谷野の件ですが、迎え入れてくれる学校を探して、    転校させてはどうでしょうか?。
森   あの子一人の為に学校中が掻き回されては、他の生徒たち    が可哀相です。転校させる案に私は賛成です。
角田  私は反対です。転校させても、受け入れてくれた学校が面    倒見切れなくなり、再転入してくる例が多いんです。
    その時は、学校への逆恨みが倍増していて、もっと厄介な    事になってきます。
森   じゃあ、どうやって立直らせるの?その方法を教えて頂戴    。
楠戸  校長も佐野先生も昨年はいらっしゃらなかったからご存じ    ないでしょうが、担任の先生が谷野を厳しく叱ったんです    。正直言って少し激しい体罰を与えたのです。そうしたら    、父親が物凄い剣幕で怒鳴り込んできて・・・。もう大変    だったんです。それ以来その先生は鬱病になって・・・。中野  私は体罰には是と非があると思うんです。建前を上手に使    って・・・。その子の為にと思えば体罰もしかりでしょう    。生徒に殴られるのが先生では我々の人権はどうなるので    すか?
校長  そこまで言ってはいけません。一応・・・体罰は良くあり    ませんょ。
教頭  担任の佐野先生のご意見は?
佐野  私が至らないばかりに・・・皆様にご迷惑をお掛けしまし    て・・・
森   先生お一人の責任じゃありませんよ。
佐野  あんな子でも受け持ったら、可愛いんです。なんとか立直    らせてやりたいんです。
校長  子供にとって、学校は残された唯一つの拠り所です。これ    を失わせては、子供達の行き場がなくなります。
    今日はこれ位で、日を改めて慎重に検討してみましょう。小田  校長、逃げないで、この機会にもっと話し合いましょう。教頭  この際、校則を洗い直してみてはいかがでしょう。
小田  意味のない校則がかなりあるのじゃない?頭髪は肩の上何    センチとか、スカートの長さは何センチとか・・・
角田  再検討する際、子供達の意見も反映させるよう・・・例え    ば学校側とPTAと子供達の代表が話し合ってと言うふう    に・・・
中野  ガキ共の意見なんか聴く必要はありませんですょ。どうせ    碌でもない要求しか出やぁしませんょ。茶髪を認めろとか    マンガ本、お菓子の持ち込みを自由にさせろとか。
角田  そんな事はない。大部分の子供達はまともだ。
    先生は知っていますか、国連の子供権利条約にも子供の意    見反映権を認めることと、それにわが国も批准しているん    だ。
中野  君は何時も建前論ばかり言うね。子供に変な権利意識を植    え付けて、困るよ、此方は・・・。
    こないだも、言うことを聴かないから罰として校庭一周を    の駈け足を命じたんだ。すると、それはペナルティですか    、わたしたちは教育を受ける権利があるから、そのペナル    ティは受けません・・・と。
    だから言ってやったんだ、教師には学校教育法第十一条で    「懲戒権」が認められているんだ・・・と。
楠戸  いくら立派な校則を作っても、守らせなくなきゃ意味ない    と思います。
森   と言っても、上履きのまま校庭を歩く教師がいるんじゃー楠戸  子供たちには遅刻をするなと喧しく言うくせに、教室には    しょつちゅう遅れていっている。
小田  そう言われれば、私、毎度毎度遅れて行ってます・・・角    田先生とは同類項ね。

         角田が頭を掻く。

小田  私だって教育熱心だって言われたいです。でも、教室に入    ってあの淀んだ退廃的な空気の中でと思うとついつい・・    ・授業があまりに早くて、付いて行けないのです。面白く    ない事は誰だって苦痛です。
    九九だって満足に覚えていなくて従って四則計算さえ出来    ない子に、いきなり連立二次方程式を理解させようとした    って、到底無理です。しかも、数学は他の教科と違って正    しい答えは一つしかない。そのたった一つの答えが出され    なかったら全然面白くない学問です。
角田  理解できない子はほって置けば良い。クラスの約三割が理    解できていればいいんだ。これは文部省が言っているんだ    ぜ。出来ないなりに努力した、その努力を評価しなさいっ    て・・・
小田  結構なご意見ですこと。でもそう言ったって、解らないか    ら面白くない。面白くないから騒ぐ。文部省がどうのって    事より、どうしたら騒ぐ子を・・・
角田  先生は補習でその子等を救えると考えているのですか?
小田  その事を今日ここで・・・
角田  教師が四十人前後の子供を教えるのに限界があるというこ    とですよ。
    例えば、オーストラリヤでは二十人、アメリカ二十人、ル    クセンブルグ十八人、ノールウェー十八人、イタリー十五    人・・・
校長  全国校長会でもせめて三十人に改めるよう文部省に申し入    れてありますが・・・
楠戸  学校に文句を言う前に、家庭での躾をキチンとして欲しい    わ。
教頭  学校は学問を・・・
校長  文部省や家庭に・・・いや一般社会に・・・それはさて置    いて、明日からの教育実践をどうするか、話の焦点を絞っ    て・・・
阿部  最近、頭が痛いのお腹が痛いのと言って、保健室で時間を    過ごす子供が増えてるんですれど・・・
角田  ストレス、ストレスですょ。それは・・・
中野  偏差値ばかりを追求しないで、もっとスポーツをさせなき    ゃ・・・
小田  校庭のゴミ、どうにかなんない?
角田  今の人間はゴミしか作れないって事です。
教頭  週に一回でも全校生徒で一斉に掃除をさせましょう。
小田  教師も一緒になって・・・
中野  教師もですか?
角田  此処は教師が範を垂れて・・・
小田  時にはいいことを言うのですね。
校長  結論としては、ゴミの問題は教頭の意見を入れて・・・。    まず、教師自身がまず模範を示してと言う角田先生の意見    も入れて・・・。
    一先ず、今日はこの辺でということに・・・

                        暗転

         三場

         校庭。
         佐野、みゆき、美保、ゆり、あけみ、みさお、         三宅、黒田、淑美、リエらが、登場する。
         佐野を中心にして円になって座る。
         私語が賑やかである。

佐野  みんな、チョツト聴いて頂戴。
    一人でも落ちこぼれないように、そして、みんな立派な人    間になれるよう、先生は先生なりに頑張っている心算なの    。でも、年は若いし、経験も浅く、教え方はとても下手で    す。
    それに・・・先生には保育園へ通わせている子供がいて、    午後五時半までには、保育園へ迎えに行かねばならないん    です。放課後、補習授業をしたいんですけれどその時間が    取れないのです。
    先生は女性であるし、身体は小さいし、男子生徒には力で    は適わないのです。
    先生は困っているんです。(涙声で)みんな勉強の出来る    賢い子になってほしいんです。みんな素直な、立派な人間    になってほしいんです。
    でもどうしたらいいか解らない。みんなの知恵を貸してく    ださい。みんなの力を貸してください。お願い・・・

         と言って佐野は上手へ逃げるように退場する。         シュンとしてその後ろ姿見守る子供たち。

みゆき  みんな、どうする。
みさお  谷野君に心を入れ替えるように話してみては・・・
ゆき   それ、誰が言うんで。
あけみ  私はよう言わん、こええもん。
りえ   少々言うたって聞くような人と違うわよ。
ゆり   黒田くん、あんた、谷野君のパシリしとんじゃろう。
黒田   (軽く頷く)
ゆり   パシリ、やめなさいよ。
黒田   ようやめん。こええもん。
みほ   そんな弱虫じゃから、強じゃのうて弱しじゃと言われる     んよ。
黒田   なんとでも言うてくれ・・・
ゆき   黒田強じゃのうて、白田弱。
三宅   よわし、よわし、ばあ言うな。弱しといわれるもんの身     になってみい、のう、よわし。

         みんなが笑った。

みさお  黒田くん、そんな弱虫じゃつたん?(泣き声で)そんな     黒田くん大嫌い。

         黒田、操の一途な思いを知ってハツとなる。
         谷野が藤原、坂本を引き連れて登場する。

谷野   おい、よわし、パン買うてけえ。
黒田   ・・・
谷野   パン買うてけえと言うとんが聞えんのか。

         みんなの視線が黒田に集中している。

黒田   ぼく、もう、パシリ、やめた。
谷野   なんじゃとう。

         谷野、黒田を殴る。倒れる黒田。でもすぐ起き         上がり、谷野と対峙する。

みゆき  乱暴やめなさい。
りえ   パシリ、やめられい。

         全員「暴力反対!パシリ反対」の声。
         谷野達が動揺する。

谷野   よう覚えとれいよ。おい、いくぞ。

         谷野の後を藤原と坂本が従う。

あけみ  ゆき、勝ったあ、勝ったあ。
みゆき  みんなが力を合わせたからよ。
みさお  ほんまじゃ、ほんまじゃ。
りえ   仕返しするかもしれんから、みんなして黒田くんを守っ     てあげようよ。
みゆき  黒田君一人にしないこと、登下校の時は・・・
みさお  私が付いていて上げる。
あけみ  わたしも。
三宅   心配することたぁーねえ。(ポンと胸を叩いて)この
     拙者にお任せなせえ。(声を変えて)おい、谷野、文句     あるか文句あるんなら表へ出ろ、表へ、拙者裏から逃げ     るから。

         みんなが笑い転げた。

黒田  (ニコニコと)僕、もうよわしじゃねえよ。
みさお  見なおした。嬉しい・・・
三宅   やってくれるじゃねえか、「中学生日記」・・・
みゆき  なあ、みんな、勉強の教えあいっこしない?
     先生、補習したいんじゃと言うとったけえど、家庭の都     合で無理じゃあけえ、此処はみんなで力を出しあって・     ・・
みさお  賛成、賛成、私、数学教えてほしい。
あけみ  わたしも数学、習いたい。
みゆき  リエ、あんた数学、得意なんじゃろう。
りえ   そんなに誉めてもらうほどのことはねえけど・・・みん     なより少しは出来る。
ゆり   みゆきは英語の先生。
みゆき  I HAVE NO CONIFIDENT
     BUT I WILL DU
あけみ  いま、何を言うたん。
みゆき  (カタコトデ)ワタシハ ジシン ナイ。バット ドリ     ョク シマス。
三宅   コノワタシニオシエテクダサイ。セッシャ、ニホンジン     エイゴハダメアルヨ。
ゆり   キミハ、ニホンゴモアヤシイ。
りえ   ゆりは星のことは詳しいから理科の先生。
三宅   僕は、早口言葉と発声法。
ゆき   そうそう、三宅くんは劇団滑稽座のスターじゃつたあ。みゆき  こうなったら、みんなで何か形のある組織にしない?
りえ   そんなに固ぐるしい規則やこう作らん方がええ。学校と     一諸に成るから。出入り自由の民主主義。
ゆり   会の名前は・・・
三宅   蜆会、浅蜊会。
みさお  バカーッ。
ゆき   仲良し会。
あけみ  菫会
りえ   翌桧会。

         全員「それ賛成!」の声。

みゆき  じゃあ決まった。クラスのみんなへの呼び掛け文を作ろ     う。
りえ   お姉さんに言うてワープロを打ってもらおうか?
ゆり   コピーは私が。学校に言うて借りる。
みゆき  淑美は何でもよう出来るから、何か受け持ってくれる。としみ  私は関係ないわ、勉強はしたい人だけすればええが・・     ・。私は人のことなんかかもうとる暇はナイんじゃ。
みゆき  としみ・・・

         淑美、無視して立ち去る。
         見送って。

     まあいいか・・・全は急げ・・・さあ始めましょう。
三宅   ええ!今日から・・・
ゆり   そう、今から・・・
三宅   なんだか、頭が・・・
黒田   お腹が・・・
みさお  保健室は満員じぁーと・・・

         それぞれが教え学びあう。

りえ   2Xと言うたらどんな意味か知っている?
みさお  わかりません。
りえ   2×Xと言う意味なのよ。数字とXやYの文字があると     きは×を書かなくていいの。よう覚えておくのょ。

         みんなくすくす笑う。

りえ   何が可笑しいのよ。
三宅   よそ行きの言葉はにわわんで・・・
みさお  まるで佐野先生のようじゃ。
りえ   かしこまって言わんと先生の気分が出んもん。いらん事     考えんとよう聴け!
みさお  ハイッ。

         さおりとゆか、千春がやってくる。

さおり  あいつら何やっとんじゃ。
千春   学校ごっこよ。
さおり  まだそんな事やっとんか、子供じゃのう。
ゆか   ちいとばぁ頭がええと思うて、偉そうに・・・。あんな     の見とるとチョウムカツク。
さおり  みゆき、りえ、ゆり、ええ格好するなや。
ゆか   ちいとばぁ頭がええと思うて、偉そうにするな。
りえ   勉強の邪魔しないでよう。
千春   邪魔というと・・・こういうことをすることか・・・

         千春「ワー、ワー」と走り回ってみんなの中へ         入りかきまぜる。
         みんな逃げるが一所に固まる。

さおり  何書いとんなら、見せてみい。

         みさおのノートをひったくる。

みさお  返してよ、かえして・・・

         二人もみあいになる。さおり、みさおを突き飛   ばす。

みゆき  お願いだから邪魔しないでよう。
ゆり   あんたらも「翌桧会」ヘ入って一緒に勉強しない?
さおり  超むかつくようなことを言うな。切れてしまうが。

         さおりがゆりを突き飛ばす。
         校門近くにリエの母親が来る。

母親  りえ。りえ。
さおり PTAの糞ババァが来た。行こうぜ。

         三人去る。

母親  りえチョツト。(手招きをする)

         りえが母親の所へ走っていく。

母親  りえ、はよう帰らんと塾に遅れてしまうが、何をしょうる    ん。
りえ  お友達に数学を教えとんじゃ。
母親  そんな事、やめなさい。一人でも多くの人を勝ち抜かなく    てはならないというのに、お友達の成績を引き上げてどう    するんです。
りえ  お友達に親切にすることがどうしていけないの。
母親  それは・・・親切は勉強以外でしなさい。今は競争社会な    の。一人でも多く勝ち抜くことが人生の勝利者になれるの    。その事は何度も・・・
りえ  そんな事はいやです。お友達と仲良くすることの方が大切    です。お父さんは何時もそう言ってくれます。
母親  何て事を。そんな事ばかり言っているから原稿をいくら書    いても売れないんだわ。
    ともかく、早く帰っていらつしゃい。塾だけが頼り何だか    ら。

         母親が帰っていく。

三宅  勉強だけが人間にとって大切なことなのか、塾か友情かそ    れが問題だ。(台詞口調で言った)
みさお  勉強が出来んでも学校へ来るのが楽しいわ。
みゆき  今日は初日じゃ言うのに、邪魔が入ってしもうて・・・     明日にしょう。

                         暗転

          四場

          放課後の校庭。
          みゆき、りえ、ゆりの三人。

りえ   みゆき、悪いけど、翌桧会、辞めさせてもらうわ。
みゆき  (吃驚して)どうして、また、急に!
りえ   母が反対するんじゃ。それに、私自身の勉強も遅れるよ     うな気がして・・・
ゆり   私も辞めさせてください。
みゆき  二人とも、どうしたん。先生があれだけ泣きながら言わ     れたの、忘れたん?
りえ   私らだけの力じゃあどうにもならんのよ。
みゆき  みんなが力を合わせたら、谷野じゃて逃げたじゃないの     。
りえ   みゆき、悪いねえ・・・
ゆり   後免・・・

         りえ、ゆりが立ち去る。一人残されたみゆき。
みゆき  (さめざめと泣きながら)りえのバカッ。ゆりのバカッ     。あたしはどうしたらいいのよ。神さまー。あたしを助     けてェー

         みゆきが駈け込む。
         三宅が体操服で一人出てきて、

三宅   みゆき、負けんなょ。人が生きて行くときには何やかや     とややこしいことがある。じゃあけえ人生おもしれえと     内の監督が言うとったけえどな・・・
     このように呑気に見える僕じゃつて、悩みはあるんじゃ     。なんで芝居の台本の台詞が覚えられるのに勉強が出来     んのんじゃろうて・・・

                         暗転

         五場

         校庭。
         全員。体操服姿で、みゆきの号令で準備体操を         している。

みゆき  12345678!12345678・・・
藤原   おーい。ええかげんにやめんか、草臥れたがな。
みゆき  じゃあ、五分間の休憩にします。

         みんなその場にへたへたと座り込む。

さおり  私、あのスケベジジイに身体を奪われようたんょ。
ゆか   へえーッ。
さおり  必死になって抵抗したんじゃけえど、オヤジじゃ言うて     も男の力には勝てん。押し倒されて・・・
ゆか   せいで、どうしたん?
さおり  足をばたばたさせて、手首に噛み付いてやった。
ゆか   仕返ししてやるか。
さおり  奥さん、おるんじゃろう。奥さんにチクルんじゃ。
千春   それが一番ええ。
ゆか   (二人に)援交やめとった方がええょ。殺された奴もい     るんじぁて。
さおり  ふーん。もうやめる。
千春   ・・・やめてえけど・・・化粧品を買うには金が要るし     ・・・

         ゆき、あけみの二人が、みほに倒立を教えてい         る。なかなかうまくいかない。
         そこへ谷野が通り掛かる。

谷野   何しょうるんなら・・・
     蛙が立ちションしょうるんか?達磨がころばりょうるん     か。

         三人がサット緊張する。

みほ   倒立を教えてもらようたんじゃ。
谷野   おめいらそこをどけ、わしが教えたる。ええか、手の位     置は肩幅にあわせて、広すぎず狭すぎず。せえから目の     位置は此処じゃ。

         前方三十センチの所に印を書いて。

     この目印をよう見て、目を離しちゃおえんぞ。よーし、     やってみい。

         みほ、勢い良く土を蹴って倒立する。
         巧くいく。みほ起き上がり。

みほ   出来た、出来た。
谷野   よおし、もう一辺やってみい。

         みほが倒立をする。谷野手伝っている。見事成         功。みんなが集まってくる。拍手。
         中野出てくる。

中野   コラッ、谷野、何しとるんかッ。

         中野、谷野を張り倒す。

りえ   先生!なにすんですか、谷野君はみほに倒立を教えてく     れてたんです。
みゆき  先生、谷野君に謝ってください。

         全員が「謝れ~~謝れ~~」のコール。
         キョトンとする谷野。

中野   わしは準備体操をしとけって言うといた筈じゃ。

         全員、「やりました」「準備体操しました」
         の声。

みゆき  少し、休憩をしていただけです。その休憩中に谷野君が     みほに倒立を教えとったんです。

         全員、「謝れ!」の声。

中野   罰として全員校庭一周の駆け足。

         中野言い捨てて下手に退場する。しかし、全員         、教師の指示を無視して座り込む。

りえ   (ゆりに向かって)私、新発見をしたんょ。
ゆり   なんでえ、新発見て。
りえ   人に教えとったら自分の勉強が遅れると言うけえど、そ     れが、間違いじゃ言うこと。連立方程式教えてくれ言う     から私、一生懸命勉強したんょ。だって人に教えるって     言うことは、なま半端な理解じゃ出来んことよ。完全に     百パーセント理解しとかんと出来んでしょう・・・
ゆり   そうかぁ。

         二人みゆきの所に行って、

りえ   みゆき、昨日は後免。私思い直したの、人に物を教える     言うことは自分自身にとっても、とても良い勉強になる     ということ。翌桧会、続けるわ。
ゆり   低いレベルのトップと高いレベルの中でのトップとでは     かなりの違いになると思うわ。じゃからみんなのレベル     を上げてその中でトップになるんじゃ。
りえ   言ってくれるわね。私がおるんを忘れとらん?
みゆき  本当?嬉しい。

         二人の手を取って、輪になって踊る。
         中野教師が引き返してくる。
         つかつかと谷野に近寄り、

中野   谷野君、悪かった。先生の勘違いだった。この通り、謝     る。

         中野が深々と頭を下げる。
         みんな一斉に拍手をする。
         キョトンとした顔の谷野。
         顔をしかめ、目に涙を一杯に溜め、やがて、大         声で泣きだす。その肩を叩く中野教師。

         二幕一場

         前場と同じ。場面転換の時間だけで良い。
         校庭には、「翌桧会発表式」の立て札が立ち、         万国旗や提灯が飾られている。
         簡単な食物が用意され、言ってみればガーデン         パーティーのようである
         。背後には沈み行く夕陽が雲を焼いている。
         さおり、ゆか、千春、が入ってくる。

さおり  なんでぇーこりゃあ。
ゆか   学校ごっこの発会式よ。でえれい派手にするんじゃな。千春   私にも翌桧会へ入らんかって言うて来たんょ。
さおり  近ごろ、クラスの空気変よ。暇さえありぁ学校ごっこ。千春   谷野までが、教科書広げて読んどるし。

         思い思いの服装をした生徒たちが入ってくる。
みゆき  さおりもゆかも千春も来てくれたんなあ。有難う。
さおり  勘違いをしないで。私らチョツト見に来ただけじゃけえ     。
りえ   そんな事言わんと入って頂戴いよ。
ゆか   へえ、馬鹿馬鹿しい。

         全員「翌桧会へ入ってください」と唱和する。         たじろぐ、さおり、ゆか、千春。

みゆき  さおり、イラスト画の描き方教えて。
さおり  この私に?
みゆき  上手じゃということ、聴きました。
さおり  (まんざらでもないと言う表情で)まあ、考えとくわ。
         みんなの拍手。さおり、ニツコリとする。

みゆき  ゆか、みんなで「手のひらに太陽を」を唄うんじゃけど     、タクト、振ってくれる。
ゆか   冗談、言わんでよう。

         みんな「お願いします」の唱和。
         ゆか、ニタニタ笑う。
         みんな拍手。

みゆき  お汁粉作るんじゃけど、千春、味付けやってくれる?
千春   私やこう、おえるもんか。

         みんな「お願い、お願い」と唱和、と拍手。
         谷野が入ってくる。制服である。

みさお  谷野君、私服でも良かったんよ。
谷野   わしゃ、制服の方がよう似合うんじゃ。

         中野先生が入って来る。

中野   おーい。みんな、明日、ソフトボールしないか?
     偏差値ばかり追求して、スポーツを忘れとると、体力が     なくなってしまうぞ。
藤原   やろう、やろう。

         みんな口々に「やろうやろう」の声
         「しまょうよ」の声。

中野   谷野、ホームベースの所にダイヤのラインを描いておい     てくれ。

         中野先生去る。
         藤原、坂本らが一本のラインを引く。
         ラインを引いていてはたととまる。

坂本   直角、どうやって出しゃあええんなら。

         黒田小さいボール紙を持ってくる。

黒田   この角を利用したら。
藤原   バカ。こげえなこめえもんで、出来るか、狂うてしまわ     あ。
りえ   誰か、先生に言って大きな巻尺を借りてきてくれない?
         三宅が走って行き巻尺を持ってくる。
         りえ、巻尺の三メートル、四メートル、五メー         トルの所を出し、藤原、坂本、三宅にそれぞれ         持たせる。

     少し強く引っ張って・・・

         直角三角形を作つり、つまりピタゴラスの定理         で出そうとする。

     黒田くん、巻尺に合わせて、直角の線を引いて。

         黒田、線を引く。
         小田先生が入ってくる。

小田   見事見事。村田さん誰に教わったの。
りえ   兄からです。
小田   この、三対四対五の数字には不思議な関係があるのよ。     斜線の辺の二乗は、他の辺のそれぞれの二乗の和に等し     い。と、つまり斜線の長さ五メートル、その二乗は。

         みんなが「五五、二十五」

小田   縦四メートルの二乗は。

         みんな「四四、十六」

小田   横三メートルは。

         みんな「三三が、九」

小田   十六プラス九は。

         みんな「二十五」

小田   斜辺の二乗の二十五とぴったし同じになったでしょう。みさお  ほんまじゃ。
小田   数学ってのは解ると面白い学問よ。
あけみ  おもしれえな。
小田   この関係を発見した人はピタゴラスというギリシャの人     で、今から約二千五百年前です。日本はまだ縄文式時代     で、石器を使ってた頃なのよ。
三宅   すげえ。
小田   この関係を「ピタゴラスの定理」って言うの。みんな一     緒に。ハイ。

          みんな「ピタゴラスの定理」
          森先生がやってくる。

としみ  大きな太陽、綺麗。
みほ   すごく大きいんじゃろうね。
ゆき   せんせい、あの太陽は何が燃えとん。
森    さあ、何でしょう。
藤原   石炭。
森    それはどうかしら・・・
     太陽が生まれたのは今から約五十億年前。石油や石炭だ     ととっくに燃え尽きているでしょうね。
みほ   ほんなら何が燃えようるんで。
森    水素爆弾と同じょ

          みんな口々に「ヒエー」「ウソー」「コエー          」

森   どんな物質でも細かく細かく砕いていくと、原子というも    のになるって知っているわよね。
    約一億分の一センチの大きさの真ん中に原子核と言うもの    があって、廻りを陽子というものが回っている。その原子    は約百種類あるんだけど、その中の一番軽いものが水素原    子。で、その水素原子が壊されて、中にある核と核が融合    して、ヘリウムと言う原子に変わるんだけど、その時に猛    烈なエネルギーを出すの。これが太陽の素なのよ。
ゆり  その水素を使いきると・・・
森   今度はヘリウム原子の融合が始まるんだけど、その炎は物    凄く大きくなりこの地球もスッポリ包まれてしまう。

         みんな「コエエ」「ウヒー」「ウソー」

三宅  後何年ほど持っんじゃろうか?この地球・・・
森   約五億年。

         みんな「ああ、よかった」「五十億年か」

森   太陽までの距離を誰か知っている。
みゆき  約一億五千万キロメートル。
森   よく知っているわね。光の速度は秒速・・・
りえ  秒速三十万キロメートル。
森   ですから、太陽の光が地球に届く迄の時間は・・・
三宅  目が回る・・・
森   ということは、一億五千割る三十万だから、五百秒、とい    うことは八分二十秒て事になる。
ゆり  私達が見ている太陽は、八分二十秒前の太陽てことか。
谷野  なんか面白そうじゃ・・・
ゆり  谷野君、これから勉強して天文学者にでもなったら・・・谷野  わしなんか・・・
森   人間に不可能はないのよ。
谷野  うん。
三宅  僕は東大へ入って灯台守になるんじゃ。二十一世紀は海の    時代じゃあとオヤジが言うとったけえな。
森   どうしてなの。
三宅  先生のくせに何も知らんのんじゃな。化石燃料ばあでは地    球の温暖化と環境が悪うなって人間が住めんようになるか    らじゃ。飛行機に代えて比較的環境にええと言えば船にな    るのが当たり前じゃろう。海には船がとなりあ、灯台がい    ることになるんじゃ。
坂本  おめいはどこか頓珍漢じゃ。
三宅  なんで・・・
藤原  今の船にはレーダーがついとるし、気象衛星が飛んどるん    じゃ。
三宅  (森先生に)衛星からの通信と光の速さとはどちらが早え    んじゃろうか?
森   それが・・・電波も光も電磁波の仲間だから同じだと思う    んだけど、調べてみては?

          森と共にみんな退場する。
          校長と教頭が出てきている。
          角田も一緒だ。校務員が出てきている。

教頭  やりましたな。子供たちは。
校長  子供たちが自分で考えて・・・。教師が力を貸す。
教頭  自分たちで自分の教室を作りました。
校長  教師になっていて良かったと思うな、こんな時は・・・
教頭  はい。
角田  問題はこれからですよ。三十人学級、ロケット並の猛烈ス    ピードのカリキュラム、一年の内に三十日以上欠席する不    登校児の問題。これは正に政治の問題です。
校務員  私らは学校をずるけるようなことはようせなんだ。そり     ぁーさびい時分は学校へ行くのは大儀じゃつたけえど、     行きゃあいったで結構楽しかった。私らぁ昔人間で古臭     えと言われるかもしれんけれど、学校というところは、     知識だけを教わるところではねえと思うとる。体育をし     て身体を鍛え、友達と遊んでその中で自然に人間として     の徳を学んだり・・・それが学校じゃと思うとる。

         子供たちが出てきて。その後に立つ先生方。

みゆき  これから、翌桧会の発会式を行ないます。

         全員拍手。

     翌桧うという意味は明日は今日よりもっと立派になろう     ということです。今の目的は友達同士が助け合い、励ま     しあって楽しい教室を作ることです。
     翌桧会のテーマソングとして、
     「手のひらに太陽を」式を始めたいと思います。その後     はそれぞれの自覚と責任で楽しくやってください。

         全員拍手。

     ああ、その前に斎藤早苗さんの詩を読んでもらいます。
         早苗がおどおどしながら前にでてくる。

早苗  (一礼して)恥ずかしいけれど、勇気を奮って、私の詩を     読みます。聴いてください。あの・・・わたしは・・・     私は毎日毎日学校へ来てすぐに保健室へ行きそこで過ご     していました。みんなの前に出ていく勇気がなくて・・     ・何もすることがないから、ノートに気持ちを書きまし     た。
     くらやみ
     先生が「質問は」と言ったから
     私は手を挙げて尋ねた。
     「そんな事さえ知らないのか」と先生。
     みんなが笑った。
     目の前が真っ暗になった。
     私は阿呆、私は低能児。

     あさ、目が覚めて起き上がろうとするが、
     身体が硬直して動かない。頭がすごく重い。
     先生のあざけりとみんなの冷たい視線が胸に突きささる     。
     校門は鬼の牙、教室は牢獄。
     私は浮浪の民。
     行き先も休むところもない浮浪の民。
     イエスキリストさま、お釈迦さま。
     助けてください私を。

         みんなシーンとなる。さまざまな表情である。         りえが一番に手を叩く。みんなが一斉に拍手。         はにかむ、早苗。

みゆき  ありがとう。そして御免なさい。早苗がそんな気持ちで     いたなんて気付かないで・・・
     今日から今から一人じゃない、みんなが支え合うことに     したのょ。
     みんなが友達になったのよ。

         全員「ともだちじゃ」の声。
         早苗の表情が明かるくなる。

     一人の悲しみはみんなの悲しみ。

         全員「一人の悲しみはみんなの悲しみ」の声。
     一人の喜びはみんなの喜び。

         全員「一人の喜びはみんなの喜び」の声。

     みんなの幸せが私の幸せ。

         全員「みんなの幸せが私の幸せ」

     さあ、みんなで「手のひらに太陽を」を唄いましょう。
         ゆかが中央に出てタクトを振る
         全員立ち上がって唄う。

                       幕

  登場人物
  大人の人       生徒達
  校長         谷野
  教頭         みゆき
  佐野教師       りえ
  中野 〃       ゆり
  小田 〃       早苗
  角田 〃       みほ
  楠戸 〃       ゆか
  森  〃       さおり
  校務員        あけみ
  平林PTA      坂本
  りえの母親      藤原
             三宅
             ゆき
             千春
             黒田
  その他子供たち    としみ
  大人たち       みさお

  作・ほづ まこと 潤色・今田 東 演出・平一機


© Rakuten Group, Inc.